3月の雨がまるで生きてる事を

責めるように体に冷たく降り注ぐ

これまでの人生を反省しろとばかりに

雨はますます強くなり

体温と幸福感を急激に奪っていく

思い浮かぶ感情は恐怖と不安ばかりだった

 

「もう限界だ頼むから大学も辞めて家を出て行ってくれ」

父が初めて僕に頭を下げた

それまでどんなに大学に行かなくても

何も言わなかった父

その父が自分の息子をたった今

丸ごと放棄した

怒られた方がマシだった

だけど父は深々と頭を下げてそれ以上何も言わなかった

留年宣告書が届いた日の午後だった

 

財布と携帯だけを握り締めて

雨の中傘もささずに公園に来た

寒さと雨でほかには誰もいない

屋根付きの休憩所に入り濡れた体を抱え込んで

髪から落ちてコンクリの地面に吸い込まれていく

雫をただ見ていた

 

この公園はのりおと初めて待ち合わせをした場所

文字だけの世界から二人が飛び出した場所

それまでネットの人間なんて

ネトゲのNPCぐらいにしか思っていなかった

" 早く僕を楽しませろよつまんないよ君 " 

" それ面白いと思って書いてるの?死ねば " 

そんな煽り文句を手当たりしだい投げつけては

返ってくる泣き言にも似た悲鳴を楽しんでいた

のりおはそんな僕にネットの向こうには自分と同じ

血の通った人間がいて同じようにつらい現実を

抱えている事を教えてくれた唯一の人

いつだってのりおは側にいてくれた

離れていてもパソコンを立ち上げれば

いつもそこにいて

僕だけを見つめてくれる

そして僕ものりおだけを見つめてきた

 

視線を足元から池の踊り場で寄り添い

じっと寒さに耐える二羽の鳥に移した

さっきまでの土砂降りも小降りにかわってて

遠くの雲の隙間からは夕方の日差しが

細く差し込みはじめてる

それは天使が地上に降りる

すべり台のようにみえた

 

その時タクシーが公園の入り口で止まった

のりおが僕をすぐに見つけて

ジーンズへのドロ跳ねもかまわず

まっすぐ走って来る

のりおの腕が寒さで震える僕を引き寄せ

そのまま包み込み

強く抱きしめた

 

「うちに来いよお前1人ぐらい俺が養ってやるよ」

「親の仕送りで生活してるくせに」

「ばーか俺が働いて養うんだよ」

 

公園の桜の木には

ピンク混じりのつぼみがちらほらと見え

もうじき暖かい春が来る事を告げていた