並木通り沿いのブロンズ像の前
約束の時間を30分ほど過ぎていた
振り返ると
駅前ロータリーの紅葉した街路樹とクリスマスツリーのオブジェ
行きかう人々のほとんどが仕事関係で自分の前を通り過ぎていく平日の午前
" 春道 : 明日ひさしぶりに会わないか? "
" のりお : お前ファッションダサイから嫌だよ "
" 春道 : お前よりはセンスあるし"
" のりお : この前の服なんかピエロみたいだったろ? "
" 春道 : 囚人ファッションに言われたくないね "
いつもこんな調子で俺達は互いのファッションを批判してた
二人とも服が大好きで
生活費の殆んどを服にかける生活をしている
春道は自宅に住む不登校大学生
俺の感だとあと何回か留年して最後は中退だろう
俺は年齢だけは一人前の親から仕送りを受ける無職
立場もセンスも年齢も違うが歪んだ社会の落とし子
大人になれなかった子供という点が二人を結ぶ付けたのかもしれない
" 春道 : いつもの像の前に10時に来いよ囚人 "
" のりお : 俺に恥かかせないちっとはマシな服で来いよピエロ "
スカイプチャットがいつもの俺達の連絡方法
こうして文字だけで会話が成立して行く
俺達は言葉を発して会話をする事を苦手としている
それは普段の生活で友達や恋人といった他人との付き合いが
まったくないから
文字の世界でしか自分を出せない人種
さらに10分が過ぎた頃
急ぐわけでもなく人の流れの1・5倍遅い歩き方で
へらへらしながら春道が現れた
ピリっとした仕事着の人間がほとんどを占める中
雑誌のNGファッションの代表の
ようなやつが近づいてくる
「寝坊した行くぞってか相変わらずだねーその単色のダサい服」
「ピエロうるせーよお前のせいでオープンに間に合わなかっただろ」
「大丈夫だよのりおが選ぶような服は全部残ってるから」
今日は話題の古着屋のセールがある日
おしゃれに気を使う俺のような人間なら必ず知っている店で
雑誌でも今一番注目されている
少し早足で俺は道を急ぐ
そのあとをヨタヨタとまったく自分ペースで春道が付いてくる
少しイラっとしながら無言で店を目指す
店はすでにオープンしていて
どこから集まって来たのだろうと思うほど人であふれていた
人をかきわけ目当てのブースを目指す
いつもなら2万円は超える値が付けられているジャケットが
1万円ちょっとで買えるはずなのだ
商品はすでに雑誌で研究済み
俺はそれと同じ物を探す
人をかき分ける
ジャッケトを見ては戻してを繰り返す
その甲斐あって計画通り探していたジャケットは無事に買えた
会計を済ませ外に出ると
すでに買い物を終えた春道が待っていた
ヤツも目当ての品が買えたようで嬉しそうに買い物袋を抱えていた
いつも俺達はこんな感じで買い物をしている
店の中では別行動
終わったら外で待つこれが二人の常識となっている
「マックでいいかな?」
「そうだな」
今度は春道の誘導で店を目指す
この辺りの細かい事は俺より春道の方が詳しい
ひょいと裏通りを入ったり抜けたり
あっという間に元の駅前通りに出てマックに入った
これならさっきも近道があると教えてくれればいいのにと
多少腹が立ったがここは我慢して飲み込み
シェイクとポテトを注文した春道は昼からメガセットなんか注文している
食べる気まんまんだ
俺はあまり食べる事に興味がないその興味と金をすべて服にかける主義
定員に渡されたトレーと持ち席に着く
「ここのマックは穴場なんだ」
「へー」
辺りを見回してそのわけがなんとなく分かった気がした
平日の昼間のマックなんて子供が走り回りそれを注意もせず無駄話に
花を咲かせる女どもで溢れているところが多いが
ここは客のほとんどが一人で静かに本などを読んでいる
大きなハンバーガーを頬張り口の周りにソースをつけながら
コーラーを音を立てて飲む春道は顔をそむけたくなるほど下品だ
春道と初めて食事をした時は
その下品なたべっぷりに顔をしかめて酷い言葉をいくつも浴びせヘコませた
だが今はなれたというか大学生にもなる人間が小さな子供のように
食べる姿を子犬の食事をする姿を見るような気持で見ている時がある
自分でも不思議だが愛らしさを感じている
「のりお!なんでハンバーガー食べないの?ちゃんと食わないと死ぬよ」
「俺はお前みたいな万年成長期とは違うからな」
「年取ると食欲がなくなるっていうもんねアハハハハハ」
「言ってろガキが」
「この後もう少しいいかな雑誌で見たスポットに行きたいんだけど」
「いいけど何処なんだ?」
「クリスマス特集で見たんだよ でっかいツリーが吹き抜けの5階まで伸びてるんだって」
「おいおい男同士で行くところかよ」
「いいじゃん」
すっかり春道ペースでこの後の行動が決まった
正直な所まったく興味はない
クリスマスなんてカップルが公共の場でイチャつくイベントなどなくなればいいと思っている
それをわざわざ現場に出向いて観察しろとでも言うのだろうか
マックを出て駅に行きふたつ目の駅で降りた
そこはこの路線でも1番大きな町で駅前には大きなビルやデパートが
立ち並んでいる
春道はキョロキョロと建物を見渡すと
俺の腕を掴んでしゃぎながら走り出した
そこは戦後何度も増改築を繰り返し巨大化したビルを取り壊し
新しく作られたショッピングモールだった
一階のフロアを基調に天井まで吹き抜けになっているいかにもという造り
フロアのクリスマスツリーは高くどこまでも伸びているように見えた
エスカレーターに乗り5階まで来ると
今度はクリスマスツリーを見下ろす風景に変わった
そこでやっと春道が俺の腕を放しベンチに座る
「どう?きれいでしょ」
「まあな、だから何?みたいな」
「のりおは本当に夢がないね」
春道の隣に座ってクリスマスツリーを見下ろす
なんだか神様かサンタにでもなった気分になる
フロアーからツリーを見上げてる人達の願いが叶えられそうな
気分になってくる
だけど俺は実際ただの無職そんな事ができるわけもなく
目の前の春道の夢一つ叶える事もできない無能な人間だ
「ねえ、のりおは何か一つ願いが叶うなら何をお祈りする?」
「ツリーって願い事するもんだっけ?願ったところで叶わねーよ」
「そうじゃなくてのりおの夢」
「俺の夢・・・・か」
来年も再来年も春道とこうしていたいと思ったけど
言葉にはできなかった
もし言葉にしたら全てが
崩れて無くなってしまいそうだったから
俺はこうして春道とくだらない喧嘩をしながら友達やってるだけでいい
そう一緒にいられるだけで満足なんだ
「僕はねずっとのりおといたい それが願いだよ」
俺が思って飲み込んだことをいともたやすく簡単に春道は言葉にしてしまった
なんて遠慮がないというか無邪気というか馬鹿なんだろう
だけど春道が思っている一緒にいたいと俺の思ってるそれは
たぶん違うだろう
だから俺は春道の頭をくしゃくしゃにして
「それは災難だな」
と笑いながらでも目は春道を見つめて言った